忘れられた愛 ~前編~
シニョーラはトルコからの留学生で、別府市に2か月ぐらい住んでいる。しかし、まだこのまちについて、よく知らない。いつも家の近くで生活していて、バスで遠くへ行ったことがない。日本の伝統や文化にきょうみがあっても、また今度と思って、しらべたことがなかった。これからは「もっと別府のまちを歩くようにしよう。」と思った。
そんなとき、別府で火祭りがあると聞いた。その祭りは扇山火祭りという名前で、毎年4月に行われる人気の祭りらしい。おもしろそうなので、一人で行ってみることにした。
火祭りの日、シニョーラはミャンマーから来た笑顔がすてきなやさしい目の男性に会った。25さいで、名前はデンポというそうだ。二人はすぐに仲良くなった。燃えている火を見ながら、時間をわすれて、自分たちのことを話した。祭りが終わるころには、二人の心もすっかりあたたかくなっていた。 もっといっしょにいたかったけど、最後のバスが来てしまったので、「またね。」と言ってシニョーラは走ってバスに乗った。その夜は、しあわせな気持ちでベッドに入った。
次の日、シニョーラはまたデンポに会いたくなった。でも、いそいでバスに乗ったので、れんらく先がわからなかった。かなしいけど、あきらめようと思った。そのとき、コーヒーが好きだと言っていたことを思い出した。シニョーラは、別府駅の近くのスターバックスへ行ってみることにした。ところが、にぎやかな通りに出たとき、速いスピードで車が走ってきた。デンポに会いたくて急いでいたシニョーラは止まることができなかった。そのまま、いしきがなくなった。
3日後、シニョーラは病院のベッドで目をさました。どうしてここにいるか、何をしていたか、思い出せなかった。そして、その日から、毎日火の夢を見るようになった。夢の中はいつももえていて、よく見えなかったが、真っ赤な火のむこうでだれかのやさしい笑顔がゆれていた。
コメント