忘れられた愛 ~後編~

おなじように、デンポもシニョーラにもう一度会いたくて、探し始めていた。最初に行ったのはAPUだった。シニョーラから聞いた話を思い出しながら、片っ端から学生や先生にシニョーラのことを聞いた。しかし、誰もシニョーラがどこにいるか知らなかった。火祭りの会場や、シニョーラが好きそうな場所にも行ってみたが、見つからなかった。
2週間後、シニョーラは元気になって、家に帰った。しかし、今もまだ、毎日真っ赤な火とやさしい笑顔の夢を見るので、ふしぎに思っていた。ある日、友だちと別府駅の近くのスターバックスに行った。店の中はコーヒーのとてもいいかおりがしていた。ひさしぶりにコーヒーを飲んでいると、誰かコーヒーが好きな人がいたことを思い出した。コーヒーを飲み終わるまでかんがえたが、名前は思い出せなかった。シニョーラは「誰だったかな?」と思いながら、まどの近くにすわっているデンポの後ろを通って、友だちと店を出た。 3か月後の休日、シニョーラが親友のサラとまちを歩いていると、とつぜん男性に声をかけられた。デンポだった。やっとシニョーラを見つけたデンポは、うれしそうにシニョーラを見つめて、あの日のことを話し始めた。しかし、シニョーラは何もおぼえていなかった。シニョーラは「すみませんが、誰かと間違えていませんか?」と答えると、行ってしまった。デンポはショックで何も言うことができなかった。

デモでも、デンポはあきらめられなかった。思い出してもらうために、シニョーラを見つけると、何度も声をかけた。シニョーラはこわくなって、サラに相談した。サラは困っている友だちを心配して、デンポと話すことにした。そして、デンポがうそを言っていないことがわかった。サラは「シニョーラは最近事故にあって、まだ思い出せないことが多いの。だから、あまり心配しないでね。」と伝えた。デンポはおどろいたが、理由を知って、少しだけ安心した。 次の日、デンポはAPハウスの近くでシニョーラを待っていた。そして、シニョーラを見つけると、「別の女の子と間違えていたようだ。今までごめん。」と言った。デンポが本当にいっしょうけんめいあやまるので、シニョーラはこわかったことをわすれて、笑ってしまった。シニョーラが「もう大丈夫。あなたの友だちも私とおなじ名前なのね。すごい!今度しょうかいして。」と言うと、デンポも、あの日のように大きな声で笑った。
それから、もう一度ゼロから始めた二人は、すぐに仲良くなった。毎日一緒に過ごすようになって、いつからかシニョーラはまたデンポを好きになった。来年の4月、二人は去年と同じ場所で行われる火祭りに出かける。祭りの火はあの日の思い出をよみがえらせて、うれしくなったシニョーラは、きっとデンポをつよく抱きしめるのだろう。
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